双極の波は あヲの波 創作とか診療日記とか

吐き出せない思いで窒息しないために

詩 『瓶詰めの人魚』

数日前に見た夢の光景を基に書きました。

人魚の顔は覚えてないけど、

陽に透かしたときに瓶の色が

水色と茜色が入り交じって、

とても綺麗でした。

 

『瓶詰めの人魚』

 

ある日 浜辺を歩いていると

砂に半分埋まった瓶を見つけた

遠くの国から

波に乗ってやって来るという

手紙かしら と

拾い上げてみると

瓶の中で小さな人魚が泳いでいた

 

わたしはひどく狼狽した

 

500mlのペットボトルほどの瓶の中で

バービー人形のような人魚が

しなやかに身をひるがえしながら

泳いでいる

 

わたしは瓶を陽にかざしてみた

 

分厚いガラス越しの

茜色の空色に染まった

瓶詰めの海

 

人魚の鱗に乱反射する光

それは水色のスパンコールを

縫い付けた美しい衣裳のごとく

キラキラと光を放つ

 

ひらひらと舞う

金魚のように

長く 白く 透き通った尾びれ

 

人魚はわたしの視線など意に介さず

小さな瓶の中で

たゆたう

瓶の口はしっかりしまっているのに

少しも苦しそうではない

 

わたしは どうしたものかと思案した

 

海に放そうか

や 瓶の口が小さすぎる

瓶ごと波に預けようか

いや そもそも海に戻して良いものかしら

 

「それ わたしです」

 

突然 背後から声をかけられた

振り向くと小柄な女性が立っていた

 

「わたしのです」でなく

「わたしです」と言われ

訳も分からず

反射的に瓶を差し出した

 

彼女は満足気に瓶を受け取ると

そのまま 浜辺を

わたしが来た方向に

歩き始めた

 

わたしは彼女に背を向けて歩き出し

二度と後ろを振り返らなかった