双極の波は あヲの波 創作とか診療日記とか

吐き出せない思いで窒息しないために

本の感想 『今日は誰にも愛されたかった』 著:谷川俊太郎 岡野大嗣 木下龍也

短歌と詩の連詩という、イレギュラーな形の作品。

最初に、連詩の順番で作品が並んでいて、その次に、お三方の「感想戦」があって、最後にもう一度、全体を通して読むような構成になっている。面白かったのは、感想戦を読んだ後で、全体を音読してみると、ひとつの詩として感じられたことだ。最初に読んだときは、意図を探り探り読んだので、そこまで俯瞰出来なかったのだけど。

それには、やはり谷川さんの最後の詩の「詩骨」ということばの存在が大きかったかなと思う。わたしには、それが背骨に思えた。全体を通したドラマツルギーのようなものと受け取った。背骨の中には脊髄がある。詩(短歌でも)としての真髄が一本全体を貫いているという印象になった。その貫き方が谷川さんらしくて、市川という人物がひょこっと時々顔を出すことで、一貫性を持たせている。

岡野さんのあとがきにもあったが、谷川さんという人は生まれながらの詩人なんだと思う。天から特別な才能を与えられたシャーマンでも、レトリックの粘土細工職人でもなく、等身大の人間なのに、ストライプのTシャツなんか着ちゃう人なのに、出てくる言葉がリリカルになっている。岡野大嗣さんと木下龍也さんの今っぽいことばも、ちゃんと受け止めて続けて行って、3人に間に、背丈の違いとか、ことばのしなやかさの違いを感じない。

 

タイトルになった木下さんの歌も、ひっかかりがあって好きです。良いタイトルだと思いました。そのタイトルに釣られましたが、裏切られませんでしたよ。