双極の波は あヲの波 創作とか診療日記とか

吐き出せない思いで窒息しないために

詩 『海の底は見たことがない 』

最近、とても具合が悪くて、

とうとう抗うつ剤が追加になりました。

ちょっと前まで出来ていた

本を読むこと、音楽を聴くことが

出来なくなっています。

先のことはあんまり考えず、

抗うつ剤が効いてくるまで

海に漂うようにぼーっとしていようと思っています。

 

 

 

『海の底は見たことがない 』

 

ここが海の底なのか

と 思うと

次は また そこからさらに落ちる

海溝の斜面は果てしなく

下を見ても

暗くて 先が見通せない

 

だから わたしは 

海の底を見たことがない

まだ この先の

限りなく地球の中心に近いところが

海の底のようだけど

もしかしたら

どこかで ブラックホールに繋がって

もう 地球でさえないのかもしれない

本の感想 『うたうおばけ』くどうれいん 『水中で口笛』工藤玲音

第165回芥川賞候補の『氷柱の声』の作者、くどうれいんさん(長い文章の時はひらがな表記、短歌・俳句の時は漢字表記)の第一歌集『水中で口笛』と、エッセイ集『うたうおばけ』を読んだ。

 

短歌の題材が、身の回りのもので、それがとても自然で、素敵に思えた。まずは、目の前にあるものを詠む。架空の恋歌の嘘っぽさみたいなものがない、というか。

 

お酒の名前が鳥の名前みたい、とか、他愛ない会話から生まれるような歌が良いなと思った。同郷の石川啄木が亡くなった年齢までに、歌集を出したいと思ったそうで、高校時代から26歳までの歌が収められている。嘘っぽさがないのは、ここに掲載されている以上に、ものすごくたくさんの歌を詠んできたからじゃないかと思う。

目の前のものを詠むというのは、当たり前のことかもしれないけど、わたしはハッとさせられた。家に籠っているわたしには、「目の前のこと」が少なすぎて、それを詠むという発想がなかったからだ。

 

一方、『うたうおばけ』は、「生活は死ぬまで続く長い実話」とあとがきに書いているように、身近な家族友人たちとのちょっとしたエピソードを綴ったエッセイだ。ちょっと短歌集の種明かしのような感もあって、たくさんの友人たちとの会話だのを読んでいると、とても豊かな生活だなぁと思った。だって、遠くから来た友だちをもてなすのに、「生うにの季節だから、うにを食べに行こう」って発想は、街中の何でもデパ地下で買える豊かさとは全く別物だ。こういう生活があって、友だちがいて、地の生活を表す地のことばがあって、歌がある。

 

都会に住む詩人の詩を読んだ後で、この2冊を読むと、風土の上に、工藤さん自身のことばが蓄積している確かな感じと、20代らしい柔軟さ、軽やかさが、合わさっているのが良く分かる。

 

小説も楽しみに読もうと思います。

詩 『手のひらに修羅を』

タイトルは、寺山修司の『ポケットに名言を』から。

ポケットに文庫本をねじ込む時代から

スマホで詩を読む時代になったなと思ったので。

片づけが苦手で、文庫本はよくなくして、

何度も同じ本を買ってしまいます。

なので、なくしたくない『春と修羅』は

電子書籍で保管することにしました。

 

『 手のひらに修羅を』

 

Kindleで見つけた

宮沢賢治の『春と修羅 』を

ダウンロード

読むと言うより

眺めている

ぱらぱらとめくる

紙の感覚はないものの

右へ左へ ページを移動しつつ

その風景を愛でる

 

目の前で 

賢治のことばの断片が舞う

スワイプする動きの

滑らかさとは 逆に

気取らない手触りの

心象スケッチ

 

なんだか

いいな

 

手のひらに 

宮沢賢治がある安心感

ある日 天変地異が起っても

手のなかで

詩が読めるのは

なんという慰めだろう

 

その日のために

わたしの『春と修羅 』は

Kindleの中で

ひっそりと ただ そこにある

詩 『くじら』

くじらのダイナミックなジャンプを見るのが好きで、

インスタでリールを飽くことなく眺めています。

自分が、自力で行けない遠くの海に生きている生物。

自分と違い過ぎて、どうやって生きているのか

想像もつかないです。

 

『くじら』

 

本当は くじらの話をしたかったんだ

灰色の海から

ざざざーっと

水を引き連れて 

天を目指して飛び上がる

重たいからだを 

重力に逆らわせる力強さよ

 

そして 空中で 身をよじって

ばっさーんと 背中から着水する

あの大きなからだ

踏切板もないのに

どうやって飛び上がるのだろう

どうして空中で

からだをよじるのだろう

 

海の中の最大の生物には

敬意を払わなければならない

 

わたしのような小さな魚は

彼らが ふと あくびをした瞬間に

飲み込まれないよう

逃げ回るのに精一杯だ



詩 『無気力』

コロナ禍において、大うつ病、不安障害の患者が大幅に増加しているそうです。

medical.jiji.com

 

そうですよね、元々、メンタルやられてる民は、

さらに一段深く落ち込んでいくようです。

 

 

 

『無気力 』

 

完全停止するのが面倒で

そのまま呼吸し続けてる

 

最近 ずっと低迷してるのは

季節の変わり目のせいかな

 

と 何かのせいにしてみる

詩 『共感力』

共感力が高いのは、双極性障害2型の特徴の一つだそうです。

でも、思えば、小さい頃から、余計なことに首を突っ込むことが多かったですね。

「優しさ」と解釈されるものが、自分にとっては、

どの範囲の人たちのことまで考えればいいのだろう?と思いつつ、

不幸な事件に心を寄せてしまうと、自分の感情が引っ張られてよくない、

ということもあります。

社会とのスタンスが、いまいちわかってない。

 

 

『共感力』

 

優しくしなさいね みんなに と

教えられたから

ぼくは みんな のことを想う

 

せかい という3文字に

ひしめき合う78億人

ほとんど 誰なのかも知らない

78億人のことを

 

小さなモニターの向こうから

だれかの死を嘆く声

声は振動となって 

空気から 水から 大地から伝わって来る


だれかが死ぬと ぼくの心から

赤い血が流れ出す

ぼくの人である部分が

小さく死んでいく

きっと たくさんの死を見たら

ぼくの存在が使われ尽くして

死ねるんだろう

 

「共感力」という仕様を

初期設定されたぼくは

そこから逃れることは出来ない


だから せめてぼくの流れる血が

だれかの嘆きの

安らぎになれたら と願うけど

ぼくの祈りは届かないまま